岩城勝手の家について
日本の風情を作り出しているもの。自然の木々や山並み、海辺の景色。そこに点在もしくは集落として寄り添って建つ家屋。そんなことを耳にした時、心に思い浮かぶ建物の形態は、多分、勾配屋根を持った家の並ぶ景色ではないだろうか。つまり、それが日本の原風景のあるべき姿だと思っている。
私も設計を始めた当初は、フラットな屋根というか、屋根の無い箱型が格好いいと思って設計していた。ある時、建築の雑誌をなにげなく見ていたら衝撃的な写真を見つけてしまった。それは、昔ながらの古い町家、瓦の屋根の家が密集する中に、ガラス纏った、白くて美しい家がポツンと写っていて、それはそれは綺麗な建物の写真。ちょうど黄昏時で、まして周りが瓦屋根という事もあってやや明度を落とした町並みに、新築の家だけは明るく、輝いて浮かび上がるような建築写真。写真としても完璧なものだった。綺麗な写真だなと思いながらしばらく見ていると、こんな疑問が浮かんできた。隣の家もその隣の家もやがて建て替えるだろう、その時この中央に写っている白いクリスタルのような家を真似した、下手くそな家が増えていったらどうなるのだろうか。無残な町並みにならないだろうか。こんなに瓦の屋根が並んだ町並みに一人だけ目立ち、誇張する必要はあるのだろうか。格好良くしようとしているところが逆に格好悪いな。
日本は雨量の多い地域。秋田は積雪もある。雨は天から降って地に落ちる。自然の摂理である。無理なく無駄なく雨を落とすには傾斜した屋根が理にかなっている。だから昔からそのようにして家を建ててきた。実に自然な姿なのである。岩城勝手の家も自然の摂理に準じた。